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今年2020年は、子どもの教育環境で大きな変化が起きる年として注目を集めています。
10年に1度改訂される「学習指導要領」が小学校で完全実施されるほか、文部科学省が2019年12月に発表した「GIGAスクール構想」が新型コロナウイルスの影響を受け、急ピッチで行われることになりました。
本来であれば数年かけて学習端末の整備が行われる予定だった計画をたった1年で完了させるなど、教育現場ではICT化にまつわる施策がどんどん前倒しで行われようとしています。
今回は、政府が推進している「GIGAスクール構想」とは一体何なのか、そして、既に学習端末を授業に導入している先進校の取り組みをご紹介します。
「GIGAスクール構想」とは?
文部科学省が提唱しているGIGAスクール構想は、「多様な子どもたちの個性に最適化された学び」を目的として、以下二つを満たす計画のことを言います。
- 義務教育課程にある児童生徒を対象に1人1台学習用コンピュータを整備する
- クラウド活用を前提とした高速・大容量ネットワーク環境を学校に整備する
日本の学校におけるICT環境整備の現状
日本の学校では、ICT環境整備がかなり遅れています。
また、地域や自治体によって大きな格差が発生しています。
現在、児童生徒への学習用コンピュータ充足率は、児童生徒5.4人に1台(小学校:7.7人に1台、中学校:6.3人に1台)となっています(2020年3月、文部科学省調べ)。
新型コロナウイルスの影響でオンライン授業へのニーズが高まったこともあり、短期間で学習用コンピュータを整備する取り組みが今、急ピッチで行われているのです。
GIGAスクール構想の実現ロードマップ(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_402.pdf
端末整備とネットワーク整備
ICTを教育現場で活用するためには、端末を配布するだけでは成功しません。
端末整備と校内ネットワーク整備が一体となって行われる必要があるのです。
当然のことながら、利用端末が増えることによって通信遅延が発生してしまうようでは授業に支障が出てしまいます。
また、これからの授業では、クラウド前提の学習ツール、動画学習、更には先進的プログラミング教育、遠隔学習の増加が見込まれます。
こういった学習に対応できるだけの高速・大容量ネットワークの整備やデバイス管理システムなども、GIGAスクール構想の実現には必要なのです。
学習端末1人1台を実践している学校
既に学習端末を授業に導入している学校では、どのようにICT機器を活用しているのでしょうか。
ICT機器導入事例とその取り組みをご紹介します。
東京都小金井市立前原小学校/東京都
前原小学校は、「スマートスクール・プラットフォーム実証事業(総務省)」の指定校として、2017年からの3年間で、低学年(1年~3年)にiPad、高学年(4年~6年)にはChromebook、Windows PCを1人1台使用できる環境を整備したICT先進校です。
「Raspberry Pi 3」を使ったプログラミング授業
「Raspberry Pi 3」を使ったプログラミング授業では、「Minecraft Pi」と「Scratch2MCPI」を活用して、Scratchによるプログラミングで今人気のゲーム「マインクラフト」の世界を自由に操る実習などが行われました(3年生)。
ICT機器をクラス運営でも活用
プログラミング授業だけでなく、ICT機器をクラス運営でも活用しているところが前原小学校の特徴です。
6年生になると「朝の会」を行う代わりに「schoolTakt(スクールタクト)」を使用した「朝ノート」活動を実施。
全生徒が自分の学習端末から入力した「朝の一言」をその場でお互いに読み合い、先生は全生徒の声に目を通して声掛けを行っています。
生徒一人一人が朝の一言を発信することで生徒同士がお互いのことを理解できるようになり、クラスの雰囲気が格段に良くなるなど、ICT機器を上手く学校生活の中に導入してしています。
立命館小学校/京都府
http://www.ritsumei.ac.jp/primary/
ICTを活用した教育活動に力を入れている立命館小学校では、高学年になると1人1台タブレットPCを所有し、各教科で活用しています。
「マインクラフト」を活用した英語の授業
今、立命館小学校のICT教育で注目を集めているのが、英語の授業です。
立命館小学校では、人気ゲーム「マインクラフト(Minecraft: Education Edition)」を活用した「PBL(Problem Based Learning)授業」を英語の授業で実施しています。
- PBL:「問題解決型学習」という意味。
アクティブラーニングの一つで、児童・生徒が自分たちで問題を発見し、自分たちで話し合いながら問題を解決していく学習のこと。
立命館小学校で行われている英語のPBL授業では、マインクラフトを使うからと言って先生が生徒に操作方法を教えることは一切しません。
操作が分かる児童が分からない児童に教える形(このときの会話は英語限定)で授業が進んでいきます。
つまり、児童がマインクラフトの課題に取り組むことがそのまま英語習得に結びつくことになっているのです。
このPBL授業は国内外から高い評価を得ており、優れた教師を選出する「Global Teacher Prize 2019」でトップテンにも選ばれています。
関西大学初等部/大阪府
https://www.kansai-u.ac.jp/elementary/
「ミューズ学習」という考える力の養成に特化した授業を行っている関西大学初等部では、2014年から段階的に学習用タブレットを導入。
3年生から1人1台のiPadを所有して情報収集、プレゼンテーション、家庭での予習・復習に利用しています。
また、「iTunes U」を利用した学習コースの作成、「Everyone Can Code」や「Everyone Can Create」などのApple教育プログラムを積極的に導入実践していることもあり、関西大学初等部は「Apple Distinguished School(ADS)」に2期連続で認定されています。
ICTを活用した思考力の育成
1年生の国語では、児童が一人一人「自分と学校」の関係性について多面的に考え、オリジナルの色を作成して関大マークを表現するというICTを活用した授業を実施しました。
児童はまず自分と学校の関係性を考えてプリントに記入。
自分で考えた関係性において、「なぜそう思ったのか」について関連する写真をタブレットで撮影してKeynoteに取り込み、オリジナル色を抽出し、その色で関大マークを塗るという内容の授業です。
この授業では、ICTを活用することで、ただ何となく色を塗る、何となく写真を撮るのではなく、児童一人一人が自分で考えて、表現するときに自らの考えや想い、意味を乗せ、そこからまた他の学びへと繋げることができるようになっています。
学習端末は一つの文房具
学習端末は使って当たり前。
関西大学初等部では、学習端末を自然に、児童一人一人の方法で使用しています。
例え低学年であっても、いや、低学年だからこそ、友達同士で教え合い、試行錯誤して、どんどん成長していく…。
好奇心旺盛な内からiPadを使い、自由を与えて使い方を尊重していくことで、どんどん変化していく学びに挑戦している小学校です。
京都教育大学附属桃山小学校/京都府
https://www.kyokyo-u.ac.jp/MOMOSYO/
「メディア・リテラシー」と主体的な学びによる創造性の育成を行っている桃山小学校では、2011年からメディア・コミュニケーション科を新設しての情報教育がされています。
Wi-Fiのアクセスポイントを全教室と体育館、特別教室に配備して、児童がインターネットを快適に利用することができるようになっているほか、あえてフィルタリングは一般的なものに留め、メディアとの上手な付き合い方を学びます。
授業のベースは「ロイロノート・スクール」
桃山小学校では、クラウド型の「ロイロノート・スクール」を授業のベースにしています。
考えたことをカードに書き、線で繋げて思考を整理することができるロイロノート。
児童が作ったカードを先生や友達と共有することで学びが生まれ、カードを蓄積することで学習のポートフォリオにもなります。
例えば国語では、読書感想をカードにまとめ、AirDropで先生・友達とシェアしたり、友達の感想に自分の考えを付け加えて話し合ったり、学習端末を導入しているからこそ可能になる双方向の学びを実践しています。
クラウドサービスには「G suite」を利用
クラウドサービス「G suite」の利用率が高い桃山小学校では、Googleスライドなどを使って学習新聞を作成しています。
児童同士が情報を共有し、リアルタイムで同時に編集作業を行うことができるので、全員が制作に参加することができるだけでなく、制作効率もアップしています。
同志社中学校/京都府
https://jhs.js.doshisha.ac.jp/
リベラルアーツの教育理念や教科センター方式を取り入れ、主体的な教育を実践している同志社中学校では、2014年から学習端末1人1台の導入をスタートさせました。
- 学習ポートフォリオの蓄積
- 学んだことの振り返り
- 自己表現
- 主体的な学び
など
1人1台だからこそ可能になる学びを、授業の中で実践しています。
また、同志社中学校では、学習ポータルサイト「NetCommons」、教育用SNS「Edmodo」、授業支援ツール「ロイロノート・スクール」、学習管理サービス「iTunes U」など様々なサービスを利用し、教科の特性や学習活動に合ったものを自由に使うことができる体制をとっています。
大学生と繋がる授業
同志社中学校では、英語の授業で「英語でレシピを作ろう」というテーマで「CBL(Challenge Based Learning)」に取り組みました。
中学生にとってのヘルシー弁当を考えて、レシピを英語でまとめてデジタルブックを完成させようというこの課題では、西南女学院大学保健福祉学部営業学科の専門家からの動画を見て、まず中学生にとっての「ヘルシー」の要素を確認。
生徒たちでお弁当のレシピを作成し、大学生と共有してフィードバックをもらいました。
その後、フィードバックを元にレシピを再考し、英訳してデジタルブックは完成!
ICTを便利に活用することができることを学びました。
ICT機器をスピーキング練習に活用
オンライン英会話を導入している同志社中学校では、英語の総合学習サービス「English Central」の動画を見て授業の予習となる会話を練習しています。
予習には会話テストがあり、合格するまでスピーキング練習に取り組むのですが、途中で発音練習が必要になった場合は「iText Speaker」や「Siri」を利用して練習をすることになります。
授業では「Envizion」というオンライン英会話を利用してネイティブ講師とのリアル会話を生徒3名のグループで行っています。
聖徳学園中学・高等学校/東京都
生徒が主体的に学んで課題解決力を養う「STEAM教育」を実践している聖徳学園では、教育効果をアップさせるため、早い段階から学習端末1人1台という環境で授業を進めています。
最新iPadとApple pencilを購入し、Apple IDとGoogleアカウントを取得することから始まる聖徳学園生活。
- 端末にはメーカー保証だけでなく、動産保険をかける
- 端末にはかならずケースを着用する
- 紛失に備えて学校がMDM管理する
など
しっかり保護をした上で授業に臨むことになります。
Google Driveで課題提出
聖徳学園ではノートアプリ(「Pages」、「Keynote」に加えて、中学では「ロイロノート」、高校では「MetaMoji」など)を使用しています。
課題提出についてはGoogle Driveを利用して提出。
先生だけでなく生徒同士でも確認することができるようになっています。
「友達に見られる」ことを意識するので、自然と「魅せる」意識が高まり、生徒一人一人の課題への創造性が高まっていきます。
生徒の個性が発揮される課題
聖徳学園では、「どの授業でもいいので、定期考査の模擬問題を作成しよう」というユニークな課題に取り組みました(担当教諭の授業であれば、自由に写真や動画の撮影可能)。
課題を通してアプリの使い方を学ぶことができる上、生徒一人一人が個性を発揮して作品を制作することができる!
この課題を通して、模擬試験の作成だけでなく生徒自らが出演した解説動画を作成する生徒も出てくるなど、生徒一人一人の創造性が発揮されるようになりました。
三田国際学園中学校・高等学校/東京都
約120年の歴史を誇る中高一貫校の三田国際中学校・高等学校は、2015年の男女共学化と同時に校名も新たに新時代の「世界標準」を目指した教育を行っています。
- 考える力
- 英語
- サイエンスリテラシー
- コミュニケーション
- ICTリテラシー
この五つの能力を伸ばすため、生徒1人1台のiPad環境を実現しています。
BUILD委員会
「Apple Distinguished School(ADS)」に認定されている三田国際学園では、生徒によって構成される「BUILD委員会」を通して、ICT機器への問題提起や意見交換を行っています。
- 日々の学習にICT機器を役立てる方法
- ICT機器の使用に関するモラルやルール(学校、公共の場など)
三田学園では、ICT機器をあくまでも学習用のツールと考え、学習に無関係なアプリのインストールができないほか、ケース装着、AppleCareの加入を義務づけています。
アプリ・クラウドサービスがフル活用
「相互通行型授業」を行っている三田国際学園では、教員が一方的に話す授業は行いません。
生徒に「どう思うのか」をまず問いかけ、その先にある探究心を呼び起こすためのツールの一つとしてiPadを利用しています。
教科を問わずKeynote、Pagesといったアプリを主に利用し、プラットフォームとしてGoogle Classroomや、iTunes U、Classi、ロイロノートなどを使用しています。
時にはGarageBand(音楽制作アプリ)やTayasui Sketches(イラストアプリ)を活用することもあります。
もちろん課題の提出には、Google DriveやiCloudを使用。
数学の授業では、学校のチャイムに着目し、どういったチャイムなら効果が高いのかを数学的観点から考察し、GarageBandでチャイム音を作成するといったユニークな授業も行いました。
上越教育大学附属中学校/新潟県
http://fsportal.jhs.juen.ac.jp/
フューチャースクール推進事業を機にICT先進校として学習端末1人1台を実施している上越教育大学附属では、「iPadは保護者の持ち物で、生徒はそれを借りて使用する」という方針のもと、保護者を含めた全体のiPad使用への関心意識を高めつつ、積極的にICT機器を学校生活に取り入れています。
1人1台だからできる学び
上越教育大学附属では、学習端末を1人1台という環境だからこそ可能になる学びがあると考えています。
- 教員と生徒に双方性が生まれる(生徒の理解度を把握しやすい)
- 生徒同士がリアルタイムで共同作業をすることができる
- 過去の学びが蓄積され、いつでも振り返ることができる
- 学校や学年を超えて学びが繋がる
など
学年を超えて繋がる学び
上越教育大学附属では、理科の授業で「上越と沖縄の天気を予想してオリジナル天気予報番組を発信しよう」という全10時間の課題解決型学習を実施しました。
iTunes Uのコースで基礎知識を学んだ生徒たちが、各種データを確認しつつ天気予報を予測して、天気予報番組を作成し、Open Dayで公開!
リアルタイムで北海道・愛媛の高校生に視聴してもらって評価をしてもらうという流れになっています。
天気予報番組作成にあたっては、GarageBandを使ってBGMを作る生徒がいれば、原稿を考える生徒がいる…など、生徒一人一人が役割を分担し、学習端末を駆使しながら真剣に向き合いました。
まとめ
2020年は、文部科学省が発表した「GIGAスクール構想」が急ピッチで行われ、教育現場におけるICT化が急速に進む年になります。
今回は、GIGAスクール構想とは一体何なのか、そしてICT先進校として既にICT機器を授業などに導入している学校の取り組みをご紹介しました。
今、大きな転換期にある学校。
これからどんな風に教育が行われるようになるのか目が離せません。