昨今のビジネス界では、うつ症状と診断されて、志半ばで休職や退職を余儀なくされるビジネスパーソンが後を絶ちません。

中堅規模以上の組織ならば、周囲にそのような方を見かけることは珍しくないでしょう。

しかも、男女とも20代終わり頃から30代の働き盛りで、社内外から頼りにされているような方の発症が多いと感じませんか。

その見立ては恐らく間違っていませんし、その理由もあります。

もしかしたら、あなた自身が「次は自分かな、」と内心不安を抱えて毎日を過ごしているかも知れません。

仕事でうつ症状を経験した筆者自身や、周囲の経験者が自ら学んだことを中心に、うつ症状で躓かないための、もし躓いたとしても立ち上がるための、ヒントになることを書いてみます。

そのため、心療内科医など医療関係者の見解とは異なる内容や、医学的に裏付けが取れない内容が含まれる可能性もありますが、そこは含み置いてください。

30代は「うつ」を発症しやすい時期?!

厚生労働省などの最新統計を当たっても、うつ症状の罹患率は男女とも30代から急上昇し、40代でピークを迎えます。

30代のうつ発症が多い感じがする、という見立ては、データ的にも間違っていないと考えられます。

私自身や周囲の経験者から見ても、20代で新卒入社してから我武者羅に頑張ってきて、「うつ」とは最も遠いイメージと思われていたタイプの人が、20代終わり頃から30代になって、突然発症して休職や退職を余儀なくされることが多かったです。

しかも、休職後に寛解・復職を果たしても、早ければ2~3か月以内、遅くとも1年以内再発してしまい、結果的に退職・転職となるケースがほとんどでした。

私も30代後半でうつ症状となり、休職・退職を経験しています。

皆さんの職場ではいかがでしょうか。

(20代の若手を中心に、自分本位で社会性に乏しい感じの人が、グズグズした感じのうつ症状を示す場合があります。20代終わり頃から30代以降に突然発症するうつ症状は、経験的にそれらとは種類が違う感じがしています。)

真面目で完璧主義の人が精神的疲労を溜め込むとハイリスクに?

20代終わり頃から30代にかけて突然うつ症状に陥る人は、ある程度共通した傾向が見られます。

私自身や経験した周囲も含めて、何だかんだ言っても根の部分が真面目で几帳面、完璧主義タイプが多いのは明らかでした。

高学歴者も非常に多いです。

20代で社会人デビューして以来、仕事最優先で頑張って社内でもそれなりの評価を確立し、上長や同僚、後輩からも信頼されているタイプが多い感があります。

その甲斐あってか、同期よりも昇進が早かったり、年齢の割に重要なマネジメントを任されたりする人も珍しくありません。

パッと見は社交性があって、コミュニケーション能力も高い人が多いので、私生活でもそれなりに楽しんでいるように映るでしょう。

恐らく周囲から見れば、公私ともに充実しており、順風満帆な人生を歩んでいるように思われることが一般的ではないでしょうか。

それでも、生身の人間ですので、実際には周囲からの期待や評価、信頼を維持するために、ずっと何年間も人並み以上に気を遣い、心を砕いて生きてきたことも事実です。

当然、本人が意識する、しないに関わらず、慢性的な心の疲労は蓄積しています。

しかし、それを表に出したり、それを理由にパフォーマンスレベルが下がることは、自身として許せないタイプなのですね。

そのようなタイプの人が昇進やヘッドハント、場合によっては婚姻などでより責任ある立場になると、言わずもがな、メンタル面の疲労蓄積は倍加することになります。

長期間にわたる継続したストレスやメンタル面の疲労が、うつ症状のリスクを高めることは、多くの心療内科医が指摘される通りです。

真面目で完璧主義の組織人ほど、うつ症状になるリスクが高い所以です。

何かのきっかけが「うつ」発症の引き金を引く

この点に触れられる心療内科医は、意外にも少ない印象があります。

私や周囲の経験者の見立てでは、慢性的なメンタル面の疲労蓄積がうつ症状のリスク要因であることは確かですが、それだけで発症に至ることは稀な印象です。

ほぼ間違いなく、発症に至る最後の「引き金」となる出来事があります。

多くの場合、組織的・対人的なファクターが絡みます。

もちろん、メンタル面での慢性的なストレス・疲労がなければ、その引き金となる出来事があったとしても、うつ症状になることはありません。

私の例で少々長くなり恐縮なのですが、敢えて紹介してみます。

私の場合、30代後半にヘッドハントを受けて転職した先が、IT系のベンチャー企業でした。

総合商社のシステム部門出身であり、その後も系列の大手IT企業で、主に情報システム構築案件のマネジメントに携わっていました。

その転職先のIT系ベンチャー企業では、トップであるCEOの補佐(部長級)として、大手外資系企業出身者などからなる特命チームを率いて、財務戦略や事業開発に携わることになります。

ITシステム構築マネジメントのベーススキルがあり、MBA学習で財務戦略や事業開発を学んでいた私にとっては、願ってもないポジションでした。

引っ張ってくれたCEOには、とても感謝したものです。

ところが2年ほど経った時、私の後ろ盾でもある件のCEOが突如失脚してしまいます。

Founder(創業者であり最大株主)と対立したのです。

Founderが連れて来た新CEOに仕えることになり、前CEOが作った特命チームは解体されました。

そして、行く末と社内の風当たりの強さに不安を抱いた外資出身のメンバーたちは、1人また1人と転職してゆきました。

私はと言えば、最後まで1人でこのIT系ベンチャー企業に残りました。

転職するならば仕掛かり中の案件(投資している海外IT系企業の整理)をやり切ってからにしたい、自分はやるべきことをやってきたのだから、との思いからです。

それに、保守的な旧財閥系企業の文化で育った私は、転職を重ねることに対して、心理的な抵抗感があったことも確かです。

社内はFounder派(新CEO派)一色となり、年次の長い社員よりも遙かに高給で前CEOに引き抜かれてきた私たちに対するやっかみは、相当露骨なものでした。

「会社を乗っ取ろうとしている!」「会社を私物化している!」などと、いわれのない中傷を受けたこともあります。

私にしてみれば、かつていた総合商社や大手IT系企業に比べて、「自社社員は明らかに企業人としての素養や能力が劣る、何と手の掛かる連中だ!」と、常々ストレスを感じていました。

胃の痛くなるような日々の中、銀座にある顧問弁護士事務所で事件は起こりました。

海外の事業投資先を整理するに当たり、問題となる契約関係がないか、弁護士さんと確認・相談していた最中です。

自社からは私の他に、新CEO、法務担当チームのメンバー数名が同席しました。

そんな中、新CEOから予想もしていない言葉が飛び出します。

「お前ら(私のこと)M(前CEOのこと)と一緒になって、いろいろ会社を壊してくれたよな。」

「結局お前らは金ばっかりかかってさ、何の役にも立たなかったんだよね。」

弁護士さんや他の社員の前でこの言葉を聞かされた時、自分の頭の中で何かがスパークしたような感覚をハッキリ覚えています。

悔しさや恥ずかしさよりも、「今までの私たちの貢献に対して、この人はこんな言葉すら吐けるんだ!」という落胆の気持ちの方が決定的でした。

私のうつ症状の発症に至る過程で、最後に「引き金」を引いた一件です。

うつ症状が発症した人は、決定的な一件を思い当たるケースが多いように感じます。

また、最近になって、うつ症状のリスクがある人が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き金として発症に至る、という専門家の見解も遅まきながら出て来たようです。

発症すると仕事の能率がガタ落ちに!それがさらなる自己否定に繋がる悪循環

うつ症状の発症シグナル、経験者であればほぼ共通しています。

まず、不眠の症状です。

心身共に疲労困憊しているはずなのに、どうしても眠れないのです。

睡眠導入剤の力を借りるしかありません。

当然ですが、午前中は心身が特に不調になりますので、職場や学校へ行けなくなる人が多いです。

そして、人間としての基本的な欲求(食欲・性欲など)がなくなり、元来好きだったものに対しても興味が湧かず、無気力・無感動になります。

無理に食事をしても砂を噛むような感じで、味をあまり感じなくなります。

自ずと体重は激減し、10㎏程度痩せることもザラです。

何よりも、強烈な自責の念に苛まれることが特徴的です。

このような感じですので、無理に学校や職場に行ったとしても、勉強や仕事の能率はガタ落ちになります。

そもそも、話を聞いても、資料を読んでも考えが纏まりません。

頭にまともに情報がインプットされない感じなのです。

短期記憶も覚束なくなり、会議の議事録さえまともに作成できなくなります。

私はうつ症状が発症してから休職するまでの間、会議で相手の発言内容や、自分の言ったことも思い出せなくなりました。

打ち合わせの際はどこにでも、必ず1人別の社員を同行していたほどです。

うつ症状になるのは、元来自身にも妥協できないところがある人間が多い訳ですから、言わずもがな、より一層自分を情けなく感じ、自責の念が強化されることになります。

もしも、同僚や家族の顔が無表情になり、好きだったことにも関心を示さなくなったら要注意です。

これが進むと自傷行為、最悪の場合は自殺を実行することに繋がります。

私の場合、幸いそこの段階までは至りませんでした。

時には手を抜いてみる、駄目な自分になってみるのも予防効果がある?

今になって振り返ってみると、うつ症状を回避する手立ては多少あったかも知れない、と反省することもあります(この生真面目さが良くないのですが)。

仮に、発症の引き金が引かれる出来事があっても、蓄積したメンタル面での疲労の絶対値が少なければ、うつ症状には至らない可能性は高いのですから。

もし、今の自分がタイムマシンに乗って当時へ行ったなら、苦しい自分に掛けてあげる言葉は次のような感じです。

「時には敢えて手を抜いてみたら。」

「いつも先頭切ってガチンコで戦わなくても良いよ、時には適当に逃げても良いから。」

「人間なんだから、頼りない面も見せて良いじゃない。」

「6割で上等、8割ならばパーフェクトと思えば良いよ。」

「頼りなく見える相手でも、任せちゃえば良いよ。」

「そもそも相手への期待値が高いから、見ててストレスが溜まるんだよ。」

こんな感じでしょうか。

ちなみに、メンタルタフネスは、うつ症状とは関係ありません。

条件さえ揃えば、誰でも発症すると感じます。

発症した人間は、私の周囲を見ても、圧倒的に責任感が強く、困難からも逃げないタイプが多いです。

うつ症状に陥るまでの私の座右の銘は、「逃げるな!真正面から戦え!」でした。

これを自分にも、周囲にも求めていたのです。

別の見方をすれば、「周囲からどのように見られるか、どのように評価されるか?」ということを、人一倍気にするタイプだったかも知れません。

逆から眺めれば、周囲からの目を気にしない人間は、うつ症状からは遠いところにいる、と言うこともできるのではないでしょうか。

また、有酸素運動(ジョギング、水泳など)をする習慣は、メンタル面のストレスの蓄積を軽減できる感覚がありますので、参考にしてみてください。

一番効果的な予防法・治療法は「環境」を変えること!

ここまで見てくると、うつ症状の発症に至るまでのメンタル面での疲労蓄積は、突き詰めると組織・対人関係にあると言えそうです。

私や周りの経験者を眺めてみても、うつ症状を発症して心療内科を受診し、ドクターストップで休職・治療した場合、同じ職場に復職すれば、高い確率で再発します。

休職すると、一時的には快復してきたように見えますが、表層的なものです。

結論から言えば、うつ症状を克服するためには、転職・独立などを実行して、根本的に発症した環境から離れる他ありません。

発症に至った環境とは、即ち組織文化・人間関係のファクターが大きいのですね。

私の場合、寛解・復職後にうつ症状が再発して退職に至りましたが、その後は再発することがなくなりました。

周囲でうつ症状を発症した人も、ほとんどが退職・転職を経てから完治しています。

なお、休職後に復職すれば、時短勤務など企業側も最初は考慮してくれますが、実質は退職・転職するまでの時間稼ぎに過ぎません。

そういう意味では、私は「引き時」を誤ったのです。

理想論を言えば、うつ症状が発症する前に退職・転職をして、人間関係を含む環境を変えてしまうことが、効果的な予防法なのです。

そもそもそれができる人であれば、発症していないですね。

次善策としては、もし発症に至ってしまったら、そこの組織に残ることはスッパリ諦め、新天地を目指すことです。

それでも、経済的な事情などで、すぐに退職することが叶わぬ場合もあるでしょう。

復職を目指す姿勢を見せ、休職制度を利用して心身の快復を図り、折を見て転職・独立するという強かさも必要になります。

20代終わりから30代にかけて突如うつ症状が発症してしまうことがありますが、それについて原因や予防法、対処法を考察してみました。

今の日本企業では、離職者が出ても容易に人員を補充してくれない場合も多くなっていますし、終身雇用や年功序列の慣習もとうに失われています。

かつてよりも、ビジネスパーソンは慢性的な緊張を強いられ、メンタル面で余裕がなくなっているのが一般的な傾向でしょう。

うつ症状の予備軍は、間違いなく増加していると容易に想像できます。

今ほど、メンタル面の自己防衛が必要な時代はないでしょう。

個人の経験談がベースの考察ですが、皆さんの自己防衛の一助になれば幸いです。


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