皆さんは「校正」という言葉を聞いて何を連想されますか。

「校正・校閲」とセットになっていることも多いので、石原さとみ主演でドラマ化もされた小説『校閲ガール』を思い浮かべる人も少なくないと思います。

ヒロイン・河野悦子が本の中身に熱中するあまり、表紙のスペル間違いに気づかず印刷にまわしてしまい、訂正シールを貼る事態に……なんていうエピソードもありました。

では、校正と校閲は何が違うのか、そもそもどんな仕事なのか、具体的に見ていきましょう。

校正はどんな仕事?

「校正」を辞書(『大辞林』)でひいてみると、

  • ① 文字・文章を比べ合わせ、誤りを正すこと。校合 (きょうごう) 。
  • ② 印刷物の仮刷りと原稿を照合し、誤植や体裁の誤りを正すこと。

ちなみに「校閲」の方は、文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること。

どちらも文書や原稿を見て、文字や文章などの間違いを直すことですね。

校正と校閲の違い

ではどこが違うかと言うと、校正は原稿と仮刷りを比べる仕事です。

元々の内容にまで踏み込むことは基本的にありません。

一方、校閲は、そもそも原稿の内容が正しいかどうか、適切かどうかを「調べ」る仕事です。

誤字・脱字はもちろん、人名、住所、日付、数値、表現のしかたなどを、辞典や資料を使って確認していきます。

ただ、両者をはっきりと線引きできない業務もありますし、線引きの基準も職場によって違いますので、ここでは「校閲を含む校正業務」=「校正の仕事」として、お話を進めて行きたいと思います。

校正の大まかな仕事内容

印刷物(電子書籍やweb媒体も含む)の校正には、だいたい決まった流れがあります。

その中で、どんな印刷物かによって手順や、ポイントが少しずつ違ってきます。

順を追って見ていきましょう。

校正の流れ

原稿

まず、印刷物の元となる「原稿」を「校閲」します。

まだ比べるものがないので「校正」することはできません。

書き間違い、入力間違い、誤変換などの基本的なチェックはもちろん、内容に事実誤認はないか、差別語が使われていないかなどを調べます。

そして、修正が必要な箇所には赤ペン(複数の色を使い分けることもある)で指示を入れていきます。

初校

赤ペンが入った原稿からつくられる最初の仮刷りが「初校」です。

ここで初めて「校正」することができます。

原稿と初校をデスクに並べ置いて、修正の指示が正しく反映されているかどうか、また、原稿を打ち直している場合は正しく入力されているかどうかを、一字一句比べてチェックします。

再校

次に上がってくるのが「再校」です。

初校で赤ペンを入れた箇所が指示どおりになっているかをチェックします。

初校で見落としたところがあれば、ここで修正の指示を入れます。

三校

再校の次は三校と呼ばれ、本の出版はだいたい三校で終わりです。

終わらない場合は四校、五校……とつづきます。

同じ作業を繰り返し、これで完璧というところで「校了」となり、印刷(web上にUP)にまわされます。

仕事上の役割とは?

本や新聞の原稿を扱う場合、業務内容は校閲が中心になります。

「日本初」と書かれていたら本当に日本初なのかどうか、資料を使ってしっかりウラを取ります。

不快な表現や差別的な表現がないかなどにも細心の注意を払います。

雑誌や情報紙などになると、緻密な校閲業務は少し減って、代わりにレイアウトがおかしくないか、写真・図表が正しい位置に入っているかなど、視覚的な間違い探しが大切になります。

商業印刷物(チラシ・ポスター・カタログ)の場合は、制作過程でクライアントから何度も細かな変更依頼が入ることが多く、それに根気よく対応することが求められます。

さらに、虚偽表示や誇大広告にならないように注意します。

校正の仕事はどんな人に向いている?

まず、普段から本や新聞をよく読んでいる人に向いていると言えるでしょう。

漢字や文法の間違いに気づくためには、正しい日本語の文章に慣れ親しんでいる必要があります。

ほかには細かさ、しつこさ、猜疑心、集中力、持久力、冷静さといったものが求められます。

細かい人

校正は、文章を読むというよりも、一字一句を点検する作業です。

本を読むのが好きというだけではできません。

ざっと読み流してしまうのではなく、誤字・脱字はないか、全角・半角のルールは守られているか、文法は正しいか、誤解を生む表現はないか、書体や行間・字間は指示どおりになっているかなど、様々なことに「引っかかる」細かさが必要です。

しつこい人

何かに引っかかったら、それをしつこく追求することが重要です。

例えば、「おさめる」という言葉が出てきたら、わかっているつもりでも必ずいちど立ち止まること。

本当に「収める」で合っているのか、「納める」や「治める」ではないのかを確認します。

自信が持てない場合は必ず辞書を引き、しつこく再確認します。

疑い深い(?)人

誤解を招く言い方かもしれませんが、何でも素直に信じてしまう人よりも、猜疑心のある人の方がこの仕事には向いています。

原稿の内容が真実かどうかを「疑う」ことが、校閲の第一歩となるからです。

「みかんの収穫量日本一の愛媛県」と書かれていたら、「和歌山県ではないのか?」「最新のデータに基づくものか?」「収穫量ではなく出荷量の可能性はないか?」「ミカン(新聞表記ではカタカナ)に訂正しなくてよいか?」と、あらゆる角度から瞬時に疑いを持つのがプロの校正・校閲者です。

集中力に自信のある人

いろんなことに引っかかって、疑いを持って、とことん調べるという作業を繰り返すためには、やはり集中力が非常に重要です。

作業中に声をかけられてもなかなか気づかないぐらいに集中して取り組むことで、校正ミス=見落としを防ぐことができます。

沈着冷静な人

誰でも機嫌のいいときと悪いとき、気分の乗るときと乗らないときがあると思います。

ただ、その振り幅が大きすぎると、校正の仕事には支障をきたします。

なるべくいつも同じ状態で、落ち着いて、冷静な気持ちで原稿に向かうことが、品質を守ることにつながります。

攻撃力よりも守備力のある人

出版の流れをサッカーに例えるなら、ライターやデザイナーはストライカーと言えるかもしれません。

原稿を書(描)いて、読者に向かって攻め込んでいくからです。

編集者はミッドフィルダーかもしれません。

ライターが攻め込みやすいように、たくさん得点を挙げられるようにアシストするポジションです。

そして、校正者はディフェンダーあるいはゴールキーパーと言えるでしょう。

どこから飛んでくるかわからないシュート=間違いをギリギリのところで防ぎ、失点=ミスを限りなくゼロに近づけるのが役目です。

攻めることよりも守ることに使命を感じるという人にとっては、とてもやりがいのある仕事だと思います。

逆に校正の仕事に向いていない人の特徴は?

向いている人の反対ですから、単純に、大雑把な人、あっさりした人、信じやすい人、集中力を保てない人、気分屋、ストライカータイプということになりますが、もう少し詳しく見ていきましょう。

大雑把であっさりタイプ

細かい作業は嫌い、正直どうでもいいと思ってしまうという人にとって、校正の仕事は苦痛に感じられるかもしれません。

重箱の隅をつつくぐらいの細かさとしつこさが、この仕事では歓迎されます。

素直ですぐに信じるタイプ

前述のように、「疑う」ことは校閲の重要なポイントです。

人間として素直なのはもちろん良いことなのですが、あまりに素直に原稿を信じてしまっては、間違いや問題点をスルーしてしまいます。

集中力や気分にムラのあるタイプ

原稿の前半部分は細かく見ているけれど後半は大雑把、というのも困ります。

最初から最後まで集中力を保ち、精度を落とさないことが肝心です。

また、気分が乗らないときはサッパリだけど、波に乗るとものすごくいい仕事をするタイプの方もいますよね。

職種によっては素晴らしい才能を発揮できると思うのですが、校正の仕事には向いていないかもしれません。

原稿のどこに落とし穴があるかわかりませんから、ムラなくコンスタントに点検・修正作業を進める必要があります。

気合いで乗り切るストライカータイプ

「昨夜は明け方まで飲んでたけど、栄養ドリンクとカフェインでバッチリ! 大口の仕事を決めてやるぜ!」なんていう方が、皆さんの周囲に1人ぐらいいるのではないでしょうか。

気合いやノリでいい成果を出せることはもちろんあるでしょう。

でも、寝不足や疲れは校正の天敵です。

必ず集中力が下がり、精度が下がり、思わぬ校正ミスを招いてしまいます。

また、少し暑いとか、肌寒いとか、お腹が空いたとか、そういうことを我慢して乗り切れてしまう人も要注意です。

自分の状態に少しでも違和感があると、集中力はたちまち下がってしまいます。

ある意味がんばらずに、すぐに空調を調整したり、おやつを食べたり、疲れたときは早めに休憩したりすることで、校正の精度を保つことができます。

校正の仕事をするために活かせる、今までの経験は?

校正の仕事に向いている人・向いていない人のタイプを分析してみましたが、こういった性格的なものだけでなく、出身地、学歴、職歴、資格、趣味、特技といった、その人の経歴や経験そのものが重要なファクターになる場合もあります。

方言・語学

小説の登場人物は、みんな東京出身で標準語を話すとは限りません。

大阪弁、東北弁、沖縄弁など、方言を話すキャラクターも登場します。

そんなときに必要になるのが方言チェック。

本当に自然な大阪弁かどうか、大阪出身者なら校正することができます。

また、語学力があれば、その外国語が使われている出版物の校正に参加できるチャンスがあります。

特に、英文校正ができる人は重宝されます。

難関大学・教師・塾講師

教科書や学校教材を扱う出版社が、学校の先生や塾の講師経験者を募集していることがあります。

難関大学の学生や出身者に限った求人も見られ、受験勉強をそのまま仕事に生かすことができます。

資格・趣味・特技

例えば、料理の本を校正する場合、校正20年でも料理をまったくしたことがない人だと不安があります。

校正経験ゼロでもお料理大好きな人がチェックすると、料理のできない校正者では気づかなかったミスに気づく可能性があります。

どんな趣味でも特技でも生かせるチャンスがあるのが、この仕事の特徴です。

あらゆる職業・経験

特によく見かけるのは、医療関係やIT関係の出版物・ネット記事の校閲者募集です。

校閲そのもの経験ではなく、医師や薬剤師、IT技術者といった職業経験が応募資格となっていることもあります。

どんな職業であれ、経験しなければわからないことが必ずあります。

主人公が銀行員なら、銀行員経験者が原稿をチェックするのがベストなのです。

実際、さまざまな経歴や得意分野を持つ人を登録しておき、必要が生じたら最適な人に依頼を出すという校正会社もあります。

校正の経験はゼロでも、この仕事に興味があればいちど問い合わせてみてはいかがでしょうか。

その後のキャリアについて

この仕事についた後のキャリアアップの道は?

私は、地方の小さな情報紙発行会社で営業事務兼校正・校閲担当として働いていました。

私が入社するまではマニュアルもなく、「とにかくよく見る」「ミスのないように気をつける」というぼんやりとした注意事項があるだけで、実際には校正ミスがちょくちょく出ている状態でした。

ミスをゼロにするのは無理でも、もっと減らせるはずだと感じた私は、手探りでいろいろと工夫し、自分なりに校正作業をマニュアル化しはじめました。

数年たった頃、校正の通信講座があることを知り、自腹で受講することに決めました。

その名も『校正技術』という教科書には、「原稿を左、初校を右に置くこと」と書かれていてびっくり。

私はそれまでずっと左右逆に置いて仕事をしてきたのです。

「この際、我流は捨てよう」と決意して、何年もやってきたやり方を変え、半年間の通信教育を修了。

校正技能検定初級という資格を取りました。

また、通信講座だけでは手ごたえがうすいので、別の校正スクールが開講していた校正一日講座にも自費で参加。

同業者たちがどれぐらいの精度でどれぐらいの時間をかけて校正しているのか、はじめて実感としてつかむことができました。

そうして社内校正マニュアルを完成させて、後任に渡し、退職しました。

今はクラウドソーシングで仕事をしており、これまでに学校教材と問題集の校正、電気製品のホームページの校正、情報発信サイトの文章校閲の仕事を請け負いました。

今後もクラウドで続けて行くかもしれませんし、その他の選択肢もいろいろ考えられます。

  • 新聞社や出版社の校正部門や、校正専門会社に就職する
  • 校正エージェントと業務委託契約を結び、フリーランスとして働く
  • 出版関係に強い派遣会社に登録し、派遣社員として様々な校正現場を経験する

これから結婚するとか、引越しするとか、親の介護が必要になるとか、どんなライフイベントがあるかわかりません。

その時その時のライフスタイルに合わせて、働き方を選んでいくつもりです。

それができる仕事だと思いますから。

他の仕事にもこの経験を活かせる?

ライターやエディター志望の人が、ひと通り校正の勉強をするということがよくあります。

書いたり編集したりする仕事には必ず役立ちます。

一般企業に就職しても、たとえば社内報を発行している部門への配属を希望すれば、校正技術を直接生かすことができます。

また、正しく、わかりやすく、誤解のない適切な表現で文章を書く力は、一般事務職や営業職にも生かせます。

以前、市役所から届いた文書に誤字があるのを発見したことがあるのですが、このことで私の市役所に対する信頼度は下がってしまいました。

いい加減だなぁという印象がどうしても払拭できません。

たった1つの誤字でもこんなことになってしまいます。

また、営業職の人はプレゼンテーション資料をつくる機会があると思います。

こちらについても以前、言葉の使い方や文法の間違いが何カ所もあるパワーポイントを見て、途中で話を聞く気を失くしてしまったことがあります。

多くの人の注意を引きつけ、大きな効果を生む資料をつくるためには、校正力も重要と言えるでしょう。

まとめ

以上、校正という仕事について見てきましたが、どんな感想を持たれたでしょうか。

現在では紙媒体が減り、電子媒体が増え、AIによる校正システムの開発も進んでいるようですが、web記事は間違いや問題が多いという現状からもわかるように、校正・校閲者はまだまだ必要です。

むしろ、インターネット社会の今こそ、校正・校閲力がますます問われているとも言えるでしょう。

というのは、いま「炎上」が大きな社会問題となっているからです。

謝った情報を発信したり、不適切な表現や誤解を招きかねない書き方をしてしまうことで、あっという間に炎上して、情報を発信した個人や企業はバッシングされます。

誰もが気軽に情報を発信でき、誰もが簡単に反応を示せる世の中だからこそ、発信者は細心の注意を払わなければなりません。

危険と隣り合わせの発信者(ライター、クライアント企業)を守ることは、校正の醍醐味と言えるかもしれません。