日本のエンターテイメント業界の中でも、様々な作品の原作となり、中核を担っていると言っても過言ではない漫画。

その漫画の創り手である漫画家という職業について、漫画の仕事をしたことがある立場から解説します。

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漫画家ってどんな仕事?

その名の通り、漫画を企画、制作、発表する職業です。

仕事の依頼が来る、もしくは自ら企画の持ち込みをし、それが認められれば漫画を執筆する作業に入ります。

代表的なものは漫画雑誌に掲載されているものですが、それ以外にも教育、広告、宣伝、注意喚起など、内容の伝わりやすさも相まって、アナログ・デジタル問わず様々な媒体で漫画が必要とされています。

漫画家の大まかな仕事内容

まずは企画を考えます。

個人で考えることもあれば、編集者やクライアントと合同で考えることもあります。

数々の漠然としたアイデアの断片や単語を頭の中で組み合わせ、資料を集め、大まかな作品の構想を練ります。

続いて、作品の簡単なあらすじを箇所書きしたプロットを書いたのち「ネーム」を作成します。

ネームとは最低限、誰がどこで何をしているかわかるラフな絵で描かれた漫画の設計図です。

このネームを使って内容を打ち合わせ、修正していってOKが出れば〆切に間に合うように作画に移ります。

これらは必ず順番通りに行われるわけではなく、作家によってはキャラクターをデザインするところから始める場合もあれば、プロット作業は行わない人もいます。

そのため「最終的な提出結果は同じなのに、途中段階で口を出されるのが嫌い」という方にはいい職業と言えるかもしれません。

ただ、漫画業界の仕事に比べると、その他の業種が依頼する漫画の仕事は作業手順が体系化している傾向があるようです。

漫画家の仕事はどんな人に向いている?得意な人の4つの特徴とは?

漫画は描くのも読むのも面白いものです。

しかし実際に描くとなると苦労が多いのも事実。

その苦しみに負けない人である要素は次のようなものと考えます。

作品を完成させられる人

当たり前と思われるかもしれませんが、漫画を1作完成させるのは実はとても難しいことです。

頭の中でストーリーを終わらせる構想があっても、実際に完結させるとなると表現力が必要です。

さらに、ノートに描いた漫画の話を終わらせることができても、原稿にペンで描いていくとなると想像以上に神経を使い、最初は1ページ描くだけでも疲れてしまうかもしれません。

一般的な漫画賞の規定ページ数は16ページや32ページ、もしくは50ページ前後ですからその労力はかなりのものです。

最初は4~8ページほどの短編を描いて慣れてみるのがいいでしょう。

作品を完結させると次回作を描く自信につながり、より多いページ数に挑戦しやすくなっていきます。

とにかくたくさん漫画を描ける人

これも当たり前と思われるかもしれませんが、たくさん描くということはなかなか難しいのです。

面白い漫画を描くには、もちろんそれなりに(場合によっては変態的なまでの)こだわりが必要なのですが、こだわりが強すぎるあまり作品を量産できないタイプの人もいます。

漫画家は締め切り通りに既定のページ数を入稿(納品)する義務があります。

連載ともなれば、それを毎月、もしくは毎週続けるわけですから並のバイタリティでは長続きしません。

絵の面だけをとってみてもそうですが、仕事で描く合間に趣味でも描くという人がごまんといます。

私も漫画を描くのですが、なかなかそこまでの境地には至れません。

これはネーム部分にとっても同じことで、描けば描くほど経験値が高まっていきます。

描ききれないほどのアイデアと、すぐに描き始める行動力。

この二つが揃っていれば一度や二度失敗したとしても、チャンスをつかめる可能性はおのずと上がることでしょう。

四六時中、漫画のことを考えていられる人

これはなにも、ずっと机にかじりついて漫画を描くということではありません。

つまり、日々のどんな体験も漫画に活かせないか考えているということです。

主観的な自分とは別の、今の状況を客観的に見るもうひとつの自分の目ができるとでもいうのでしょうか。

これが習慣づいてくると、自らの不幸な出来事すら「いつか漫画で描くネタができた」と考えられ、ある意味前向きになれます。

このような客観視点は、多くの登場人物を描く漫画家に必要な能力でもあります。

ある程度、物事を割り切れる人

特にページ数が多い場合、すべてのページに100%の力を入れていてはスケジュール的に無理が出てくる場合があります。

「ここは100%じゃなくてもいい」をいう箇所を的確に見出し、早めに次の作業に移れる割り切りも重要になってきます。

また、どの雑誌に載りたいかというのも人それぞれですが、やはり少年ジャンプのような大部数の雑誌をまず目指す人が多いと思います。

しかし、漫画家になること自体を第一目的にするなら、なりふり構わずいろんな投稿先を探すのも手です。

ひとつのゴールにこだわるあまり、自分の才能を活かせる場を見過ごしているということも少なくはありません。

現在は雑誌の発行部数も減少し、WEBから人気が出る作品も多いため、これまでの雑誌の枠に収まらない作品が活躍するチャンスは増えていると言えます。

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漫画家の仕事をするために活かせる、今までの経験は?

漫画家を目指したい方は、子供のころから漫画を描いていた方ばかりではないはずです。

スタートが遅いことで技術的には不利かもしれませんが、それまでの経験を活かせればその不利を覆すことができるかもしれません。

なんでも活かせられる

いきなり身も蓋もない言い方をすると、描く漫画の内容によります。

逆に言うと、どんな経験も描く漫画の内容によっては活かすことができます。

やっていた習い事やスポーツ、趣味、特技、バイトや仕事など、身近なものは共感を呼びやすく、専門性の高いものは「そんな世界があるのか」と興味を持ってもらえます。

注意してほしいのは、経験が多い=面白い漫画が描けるわけではないということです。

現実はただのとっかかりであり、大事なのはそこからいかにイマジネーションを膨らませられるかです。

習字

漫画には描き文字がつきものです。

描き文字とは、効果音やフキダシの中に入れるほどではない情報量の少ないセリフを手描きしたものです。

それをかっこよく、効果的に描くためには習字の技術は役立ちます。

描き文字に限らず、漫画を描くというのは、言うなれば白紙の原稿をどう効果的に埋めていけるかということです。

どのような分量、どのようなバランスで空白を埋めるか、という点で共通しているのです。

そういう意味では習字は漫画に活かすことができると言えるでしょう。

フィギュア収集・模型作り

絵を描くにあたって、立体感を把握することは大事です。(よほどデフォルメされた絵柄ならともかくとして)

漫画家のデッサン人形というと、古いイメージだと木でできた人形をイメージされる方もいるかもしれませんが、あれはまったくといっていいほど実用性がありません。

関節の数が少なかったりや可動域が狭かったりで、人間的なポーズをとらせることができないのです。

それよりは玩具メーカーの出す対象年齢高めのアクションフィギュアのほうが、はるかに実用性があります。(中には最初からデッサンに使用できることを売りにしているものもあります)

人型のプラモデルを作るのも有効です。

人体をパーツ分けして考えられると、全身を描く時に役立ちます。

漫画家として働くメリットとは?

自分の作品で楽しんでもらえる喜び

自分の漫画にお金を払ってもらえるということは自分の考えたキャラクターや世界観、「面白い」と思って送り出したものを認めて太鼓判を押してもらえたということです。

これはもう、仕事上のメリットどころか生き甲斐になるような嬉しさです。

私も、生きていてこれを上回る喜びを味わったことがありません。

休日の設定が自由

漫画を描く作業は、〆切さえ守れればいつ休んでも構わないので休日の設定が自由です。

休日に混む施設を平日に訪れることもできます。

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その後のキャリアについて

この仕事についた後、漫画家としてのキャリアアップの道は?

あくまで漫画専門誌での道筋ですが、デビューから連載のコンペを勝ち抜くためにネームを描き、認められれば連載、そして単行本化(ただし経済的に厳しい一部の雑誌では、売り上げが見込めない場合、ページが溜まっていても単行本が発売されない場合はあります)

そこから更に人気を得れば、アニメ化・映画化など、作品が他のメディアでも展開します。

ただ、必ずしも全員がそこを目指しているわけではなく、あくまでより良い漫画を描くことが一番の目標であるという方も多いです。

他の仕事にもこの経験を活かせる?

どのような経験も漫画に活かせるということは、逆に言えば漫画を描くために仕入れた知識や経験がそれらを行う時に役に立つということです。

また、漫画を描いていた経験自体を活かす方法もあります。

代表的なものが漫画学校の講師などです。

ただ、漫画を描くうまさと漫画を教えるうまさは別物なので、その人自身がいかに漫画の技術をどれだけ理論的に考え、解説できるかが大事です。

漫画家を目指す上で注意した方がよいこと

漫画家は作家であると同時に個人事業主でもあります。

よほどの天才でない限り、収入のことを考えていないと、いくらいい作品を描けても暮らしが立ち行かなくなります。

仕事内容を時給換算してみる

以前、児童向けの偉人を紹介する学習漫画の作画を担当したことがあります。

最初に提案された条件を見て、初めて請けるタイプの仕事だったため相場通りかはわかりませんが、そこまで低すぎるわけでもない額だったため

引き受けさせてもらいました。

しかし、仕事を進めるうちにどんどん無駄が出てくることがわかったのです。

主人公のキャラクターデザインの際、幼少期も提出してほしいと言われたものの、実際は使われなかったり。

娯楽より教育の面が強い媒体であることもあってか、修正指示の量も非常に多かったです。

各工程に大量の修正を行い、時には一度OKが出たはずの工程にまで遡った指示も出されました。

そういった事を繰り返した結果、締め切りは最初に提示されたものから2~3週間延び、その後に引き受けていた仕事のスケジュールにまで影響してしまいました。

最初は妥当かと思っていた報酬も、修正の量やかかった時間を時給換算してみると妥当とは言えなくなってしまっていました。

こういったことは、相手が漫画を専業にしているクライアントでない場合起きる可能性が高まるため、注意が必要です。

そうならないためには、こちらからも修正の回数は〇回までと限定するなど、条件を出していくことが大事です。

「買い叩き」にご注意を

WEB上で顕著なのが、相場より格段に安い値段での依頼です。

漫画の原稿料の相場は、新人であってもモノクロで8000円~。

イラストカットは小さいものでもモノクロ3000~5000円程度です。

もちろんカラーであれば報酬は上乗せされます。

私は以前、国外に向けたニュースサイトのカラーイラストを依頼されたことがあります。

クライアント側は「コマ」と呼んでいたのですが、実際にそのサイトを見せて頂いたところ、「コマ」というより「カット」でした。

価格は1カット1000円とのことでしたが、安く見積もっても相場の5分の1ということです。

ニュース記事に合わせたイラストの構図やキャラクターデザインまで含めてその値段ではとても割に合いません。

さすがにこの価格でお引き受けはできないと、値上げ交渉をしたのですが、予算不足とのことで契約不成立となりました。

しかし私は、それならそれでいいと思いました。

漫画業界に限りませんが、安すぎる値段での仕事を引き受け続けることは

業界の価格破壊を招き、まわりまわって同業者、ひいては自分の首を絞めることになります。

特にプロ志望の方は「自分の仕事がお金になるのが嬉しい」「まだデビューしてないから相場より低い額でも仕方ない」というふうに気持ちが傾くかもしれませんが、そこが付け目と格段に安い値段を持ち掛けてくるクライアントがいるということを忘れないでください。

極端な悪例を挙げると、「キャラクターのデザインをコンペにかけたいので提出してほしい。選ばれた場合のみ報酬を払う。」という話を持ち掛けられたことがありました。

私は依頼を持ち掛けられたのが初めてだったので最初は迷ってしまったのですが、よくよく考えてみるとまったくフェアではない話です。

公募コンテストでもあるまいし、依頼するのであればこちらのデザイン作業に対して報酬を払うべきです。

こんないい加減な契約内容では、報酬が支払われる保証などどこにもありません。

向こうはどれも選ばず、デザインだけ盗用することも可能なのですから。

このように最初の依頼の時点でギャラを提示しないクライアントはまず疑ってかかりましょう。

私も、2度目の仕事で原稿料が相場より安かったため値上げ交渉を提案し、受け入れて頂いた事があります。

デビュー前や新人だからといって、自分の実力を過小評価せずに漫画家は個人事業主でもあるということを忘れず、正当な報酬を受け取るようにしましょう。

まとめ

以上のように、漫画家には苦労や注意点が数多くあります。

しかしこれは、多くの人がレベルの高い切磋琢磨を続けている業界だからこそでもあります。

自信と野心のある人は、自分の考えた面白い漫画でこの世界に挑戦してみてはいかがでしょうか。